芭蕉に思いを馳せましたあとは、今度は北斎です。北斎が描いた、日光の滝を訪ねました。さすが、歴史ある地、日光。江戸時代から有名人が集まる人気スポットだったんですね。

●霧降の滝・きりふりのたき●
栃木県日光市霧降。霧降川にかかる滝。上下二段に分かれていて、上段25m、下段26m、全長75m。古くから華厳の滝、裏見の滝とともに日光三名瀑の一つに数えられている。日本の滝100選。
来訪日:2014/1/13

この近くにわたしが通っていた学校の合宿所があって、夏休みには部活でも訪れていました。この滝も、朝のジョギングコースで来ていた、はず!でも、その当時は滝についての記憶は特になし。ジョギングがつらかった記憶しかありません…。どうやら高校時代、わたしは、滝に目覚める前だったようです。

滝の正面に観瀑台があり、そこから遠望する形です。DSC_0032
奥に見えるのは、赤薙山です!周囲の木々が紅葉や新緑だと、また全然印象が違うのでしょう。

遠いのですが、その距離をあまり感じません。意外なほど山肌にくっきり輝き、音もしっかり響いてきていました。
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滝壺まで降りていきたいところですが、どうも今は通行止めになっているようで…今回は、北斎さんの絵にて、味わいます。

北斎が72歳のときに出した滝めぐりシリーズ「諸国滝廻り」の全8図のなかでも、わたしがけっこうお気に入りだったのが、こちらの霧降の滝なんです。
hokusai『下野黒髪山きりふりの滝』

描かれているのは、滝の下の段のほうです。北斎の滝の絵は、それぞれ水しぶきの表現方法が特徴的なのですが、こちらは、岩肌を滑るように伝い流れる白い帯と、岩崖から飛沫をあげて落ちる瞬間のかき分けが絶妙です!

北斎といえば、富嶽三十六景『神奈川沖浪裏』での波しぶきの描写が有名ですよね。hokusai2
この波は、カメラでいうところの、シャッタースピードを高速にした場合に、撮れるような水飛沫です。

きりふりの滝の下部分の飛沫は、この波の表現のように高速シャッター的なんですが、一方、流れの表現のほうは、スローシャッターっぽいんです。北斎さんの心のカメラは、岩肌のすべるような流れを眺めるときはスローシャッター、水しぶきの勢いを感じるときは、高速シャッターと、使い分けてそれを一つの絵に組み合わせています。絵だからこその表現が面白いです。

わたしも滝の写真を撮るときには、スローシャッターで流すのか、高速にしてしぶきを止めるか、迷うときがあります。ひとつの滝のリズムって全然単調じゃなくて、様々な流れが組み合わさっていて、その流れにそれぞれに個性があるから。それぞれを生かせる表現方法にしてあげたいもので… ちょっとだけ、北斎さんの気持ちが、わかる気がしました。

同じ滝を観て、何百年も前の人の気持ちを、想像できる。
この滝が、ずっと変わらないで流れていてくれる、おかげです。

滝がなければ、わたしは北斎の絵についても、考えてみることもなかったんじゃないかと思います。前回紹介した芭蕉の「奥の細道」もそうなんですが、滝をきっかけに何かを知ろう、と思える。どんな入り口でも、好奇心の元になるからわかりませんよね。

さまざまな出会いをくれている滝に、今日も感謝です!